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こころの分析

私は長いこと精神分析に携わってきた。最初はおもしろそうだとか、勉強していけば何か役に立ちそうだとか、そういう思いがあってこの道に入った。精神分析という高尚そうな文字も魅力の一部ではあったのかもしれない。

ところが、数十年するうちに、漢字4文字並んでいる見栄えが、腕組みしてしかめっ面しているように思えてきた。勉強、研修が進み、自分の分析室を開こうと思った時には、この堅苦しい4文字をなんとかしないといけないと考えた。私は世間的には知られていないから、精神分析をベースにやると言っても、精神分析などというものは知らず、悩みがあるからどこかカウンセリングに行こうと思って訪ねてくる人もいるだろう。だが、そういう人が「精神分析」という言葉をどう思うだろうか?ここは「精神」を分析してくれるところなのか?分析ってなにやら難しそう。人によっては、精神を分析するなんて恐ろしい、なんて思ってしまう人がいるかもしれない。

そこで、いろいろ考えた挙句、決めたのが「こころの分析」という言葉である。私の知る限りは今までこの言葉を使った人はいない。英語で言ってしまえば psychoanalysis なのだが、漢字というものは一応日本語とはいえ輸入物である。ひらがなは漢字の影響があるものの日本で発明されたものだ。そういう意味では日本での精神分析ということでは、「こころの分析」という言い方の方がマシである。

そして、それ以外に、以前、神田橋條治先生のおられる病院で研修をしていて、その病院を辞する頃、神田橋先生から記念にと頂いた本の題名が「治療のこころ」であり、その思い出や神田橋先生から受け継いだものや宿題を自分なりに解こうと今まで考え工夫してきた諸々のこと、そういったものがごっちゃになって、「こころ」の中に含まれているのだろうと思う。

こころを分析する、という意味で使ったわけではないので、取り違える人がいるだろうが、まあそんなに厳密に考える必要もないだろう。言葉というのは完璧なものではないし、発信する人と受け取る人との間でのギャップがあるのは当然のことだから。今でも精神分析という言葉を使わなくてよかったなと思う。
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