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蝉語

ふとソファーを見ると、蝉が止まっていた。なぜこんなところにいるのだろう。いくら考えたところで正確な答は出てこない。背もたれのところなので、そこに蝉がいる限り座ることはできない。

平穏無事に外に出ていってもらいたいものである。とは言え、誘導するのが一苦労だ。下手をすると蝉が驚いて部屋中を無茶苦茶に飛び回り、悲惨な状況となることも考えられる。今のところはじっとして一歩も動かないので、静観することにした。というよりは、よい案が見つからないのである。知人にメールしてみたら、ビニールでつかんで逃がすくらいしか方法はないのではないかと言う。最後はそうするしかないかもしれないが、逃げようとして暴れて羽が傷ついてしまう恐れがある。

結局、蝉はソファーに泊まったまま、一晩を越した。翌朝も動かずにそこにいる。よくもそんなにじっとしていられるものだ。もちろん、勝手に動いて見えないところに隠れてしまうよりそうしてくれる方が有り難い。

ソファーから1メートルほど離れたところで、シャツにアイロンをかけた。そこはアイロンをかけるいつものポジションである。それにしても夏のアイロン掛けは暑い。突如、蝉が短く2回鳴いた。ミンミンでもジージーでも、おーしんつくつくでもない。あまり聞かない声である。外に出たいという意志表示なのであろうか?なぜかそういう考えが起こってきて、ガラス戸と網戸を開けた。蝉はまたたく間に、外に飛び出ていった。

蝉はたまたま迷いこんで出られなくなったのだろう。私は自由な外に出ていってほしいし、蝉もそれを願っていたのに違いない。日本語は通じない。私としては、私が蝉に危害を加えないということをなんとなく伝えるしかなかった。蝉は蝉なりに、ここぞというタイミングを待ち、自分なりに意志を表そうとしたのではないか。

蝉もほっとしたに違いないが、私もほっとした。
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