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少しずつ

ちょっと、という言葉は会話でよく使われるが、あまりにも幅が広い。ほんの少し、少し、かなり、時には、ものすごく、という意味を持つこともある。「ちょっと」と言ってもどの程度かを判断するのが難しいことがある。文脈や話し手の雰囲気、表情などから推測しなければならない。恐らく、コミュニケーションのギャップが生じていることもあるだろう。それでも、「ちょっと、と言ってたのに、ちょっとじゃないじゃないか」などと言ってケンカ腰になるひとを見かけないのは、ちょっとに幅広い意味があるという暗黙の合意があるからなのだろう。これほどの幅の広い意味があるとなると、通常の単語というよりは、スキャットに近いのかもしれない。スキャットというのは、ジャズのボーカリストが、「ドゥビ、ドゥビ、ダバダバ」など意味のない言葉で歌う歌い方だ。意味のない、と言ったが、正確に言えば、まったく意味がないというわけではない。発声のノリや抑揚、一瞬の情感の込めようによって、なにと言うのは難しくても、なにかが表現されているわけである。

少し、というのはちょっとに比べるとずいぶんと意味が限定されているように感じる。今の世の中はなんにつけてもスピードが早い。そして、メディアで取り上げられるにせよ、SNSの中で話題になるにせよ、目立つということが評価のポイントになりがちである。確かに大きな抜本的な改革が必要なものもある。急いで対処しなければいけないものもある。そのことを否定するつもりはない。

敢えて言うが、だからこそ、少しずつ、という変化にも意味があると思うことにも、また意味があるのではないか。以前書いた記憶があるが、日本の法律家を増やそうと法科大学院を大幅拡充したが、やり過ぎだった。今では、その反省からほどほどに増やせばよい、となったようだ。他にも同様の例はあるだろう。言いたいのは、やり過ぎのために、結果的には効果がなかったり、かえっておかしなことになってしまう、ということは世の中にはけっこうあるということだ。見栄えはしないが、程々とか少しずつ、というペースがよい場合も多々あるだろう。

精神症状に目を向ければ、うつの症状が軽くなるのも、割と早くすっとよくなるひともいることはいるが、「まあ、前よりはいくらかよくなってきているかな」という程度しか改善が実感できないひとも多いだろう。

少しずつ、にも価値を見出したいと思うのである。

ところで、私の五十肩の痛みも少しずつ軽くなっているようだ。
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ローラン氏訪日中止

フランスの精神分析家、エリック・ローラン氏が来日し、国際三島由紀夫シンポジウムで登壇する予定になっていた。残念なことに、急遽、ローラン氏の訪日が中止となった。先週、パリで起こった同時多発テロの影響を受けてしまった。現時点で、同シンポジウムのホームページにそのことは書かれていないが、ローラン氏の欠席により一部スケジュールの変更がなされるだろう。

ローラン氏と私が初めてお会いしたのは、当時私の住んでいた豪州のメルボルンで精神分析の国際コングレスがあり、そこにローラン氏が招かれたときだった。その後、京都大学での講演のため来日されたときには、友人らと京都のお寺巡りに同行させていただいたことがあった。今回予定されていた講演は、Mishima avec Joyce という興味深いタイトルで、楽しみにしていたのだが、本当に残念だ。それにしても、今後の中東情勢、シリア難民、テロの諸問題はどうなっていくのだろう。思うに、単に悪者をやっつければいいというような単純な問題ではない、ということは確かだ。文化、政治、経済、環境その他、社会すべてが大きく変わる、言ってみれば、今の時代が文明の転換期にあるのだろう。そのことを、一部の政治家や学者に任せるのではなく、ひとりひとりが、情報を得て、学び、思考する必要がある。そしてその成果を私たちの文明、いや人類のみということではなく、地球、宇宙と大きく考え、たとえ少しでも、広い意味での環境をよいものにしていく行為につなげていくことが大切なことであろう。

なお、国際三島由紀夫シンポジウムは11月22日に青山学院大学で催される。事前登録は不要で、一般の方が参加できる。私は、同シンポジウムの運営などに関わっているわけではないし、ローラン氏の講演はなくなったが、三島には元々関心があったので聞きに行こうと思っている。

エリック・ローラン氏は無事で、直接的にパリでの事件で被害を受けたわけではないことを、心配される方がいるかもしれないので、付記しておく。
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ラカン「転移」のセミネール

先週の日曜日はラカン精神分析のワークショップ、昨日は「エクリ」の読書会だった。このところ、学会や研究会が続いていて、正直なところ昨日は出かけるのがしんどかったが、いろいろな議論を聞けたり、昔読んでほとんど忘れかけているフロイトの論文をまた読もうと思うなど、やはり書斎に閉じこもるのと違って、いろいろと刺激になる。

休み時間などでの雑談も情報を仕入れる機会になる。最近、ラカンのセミネール8巻「転移」の邦訳が岩波書店から出版されたという。10月末に出たのは上巻だが、近々、下巻も出版されるらしい。このセミネール8巻は海賊版の英語訳で一部を読んだことはあるが、ぜひ通しで読んでみたいと思っていた。ラカン派の転移概念は、他学派と違うので検討しておく必要がどうしてもある。もちろん、フランス語に堪能なひとには邦訳が出ようと出まいと関係ないのだろうが、私にとっては邦訳が出ることは大助かりである。早速、買ってきて読み始めたところだ。
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